特許権について
2010年12月20日16:25 特許の間接侵害-部品の輸出(2)
2010年12月15日12:24 特許の間接侵害-部品の輸出(1)
2010年04月14日10:47 ダブルトラックの弊害か裁判官の当たり外れか
2010年12月20日16:25 特許の間接侵害-部品の輸出(2)
<問題となる状況>
ある製品の部品が日本で製造され、外国に輸出されている。
外国でその部品を使用して、日本の特許を侵害する製品(「侵害品」)が生産され、その外国から日本を含め各国に輸出されている。
このような場合、日本での部品の製造行為が、間接侵害(特許法101条)に該当するか?
前回は学説について概観しましたが(こちら)、今回は判例を概観したいと思います。
判例は、学説(従属説・独立説・これらの修正説)のいずれに与するか明らかにしておりません。そのため、バックボーンを明確にしないまま事案に応じて対処・判断していると評価されることもあります。
しかし、私は、少なくとも最近の判例における考え方自体は、一貫していると思います。
3つの判例を紹介します。
(1)「製パン事件」大阪地裁H12.10.24(特許判例百選80事件)
直接侵害行為が国内と海外の両方に存在する案件。
直接侵害行為が国内である分についてのみ、間接侵害を認めた。
控訴後に和解
(2)「ポリオフィレン組成物事件」大阪高裁H13.8.30
直接侵害行為は海外のみで、逆輸入がない案件。
間接侵害が一切存在しないとして、棄却。
(3)「多関節搬送装置事件」東京地裁H19.2.27(判タ1253-241、判タ平成20年度主要民事判例解説)
直接侵害行為が国内と海外の両方に存在する案件。
逆輸入の有無は不明。
直接侵害行為が国内である分については、間接侵害を肯定。
上記(1)~(3)の判例のいずれも同様の理由によっています。この理由は(3)の判決で簡潔にまとまっているので、以下に引用します。
「特許法101条は、特許権の効力の不当な拡張とならない範囲でその実効性を確保するという観点から、特許権侵害とする対象を、それが生産、譲渡される等の場合には当該特許発明の侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高い物の生産、譲渡等に限定して拡張する趣旨の規定であると解される。そうすると、「その物の生産にのみ使用する物」(1号)という要件が予定する「生産」は、日本国内における生産を意味するものと解釈すべきである。外国におけるイ号物件の生産に使用される物を日本国内で生産する行為についてまで特許権の効力を拡張する場合には、日本の特許権者が、属地主義の原則から、本来当該特許権によっておよそ享受し得ないはずの、外国での実施による市場機会の獲得という利益まで享受し得ることになり、不当に当該特許権の効力を拡張することになるというべきである。」(判決p90末行~、下線は筆者)
(1)~(3)はこのような考え方に立っていますから、傍論での指摘もこの流れに沿うものとなります。
すなわち、(2)の判決の傍論で、製品が逆輸入された場合には、輸入行為による直接侵害が新たに発生するだけであり、それ以前の日本での部品製造が間接侵害を構成するのではない、と指摘されています。
また、(3)の判決の傍論に、ノックダウン方式(製品に必要な全部品を日本で生産し、組立のみを海外で行っている場合)には、日本での直接侵害と同視できる可能性がある、との含みを残しているように読める部分があります。
以上の次第で、上記の問題状況において、ノックダウン方式以外の場合に、日本国内での部品製造が間接侵害であると裁判所に認めてもらうのは、現状では困難であると思われます。
弁護士 永 田 玲 子
インフォテック法律事務所
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2010年12月15日12:24 特許の間接侵害-部品の輸出(1)
ある製品の部品が日本で製造され、外国に輸出されたとします。
外国でその部品を使用して、日本の特許を侵害する製品(「侵害品」)が生産され、その外国から日本を含め各国に輸出されている現実がある場合。
日本での部品の製造行為が、間接侵害(特許法101条)に該当するか、という問題があります。
今回はまず学説について概観し、次回、判例を概観したいと思います。
間接侵害については、その成立に直接侵害が必要とする従属説と、必要でないとする独立説の対立があります。
従属説では、侵害品の生産が外国である以上、日本での部品の製造行為は間接侵害とならないのに対し、独立説では間接侵害を肯定するのが理論的です。
しかし、独立説の多くは、属地主義などを理由に間接侵害を否定する方向に結論を修正しています。
なお、いわゆる「ノックダウン方式」(全ての部品を日本国内で製造し、これを輸出し、輸出先で組み立てるやり方)の場合、予め組立の試行や試運転などが日本で行われていることを理由に、実質上、日本国内で侵害品の生産があったと考える学説があります(松尾和子「間接侵害(2)裁判実務大系、吉藤幸朔「特許法概説」)。
ただし、これはカテゴリとしては、間接侵害ではなく直接侵害として捉えています。
ところが、近時、ノックダウン方式でなくても、侵害品が日本に逆輸入されることを想定して部品の製造を行っている場合は、間接侵害を肯定すべきだとする有力説が台頭しています(岩坪哲「知財管理58巻2号」、仁木弘明「特許法101条に規定された専用品の輸出と間接侵害」知財ぷりずむ36号p79)。
このうち岩坪弁護士は、(1)共同不法行為構成、(2)「輸入に用いる物」への101条の類推適用、(3)「輸出」への101条の類推適用、という3つの構成を検討されています。その上で、少なくとも生産拠点のみを分社化して海外に置き、日本市場での需要に向けた商品を逆輸入する場合には、(2)の構成を取るべきと主張されています。
このような説に対しては、強い反対説もあります。
反対説は、H18年度特許法改正において、特許法2条3項に「輸出」が加筆された反面、101条に「輸出」が加筆されなかったことを根拠にしています。すなわち、近時の立法で見送られたにもかかわらず、結論が反対となる解釈を行うことは困難と考えるのです。(判タ平成20年度主要民事判例解説p225)
比較法の観点から必ず挙げられるのは、米国特許法271条F項(2)です。
これは、外国における直接侵害者に特許発明の構成部分等を供給する行為は、それが特許発明の実施に適合されるように生産されたものであることを知りながら、そのような第三者による組立を意図した場合には、間接侵害を構成する、というものです。
<参考文献-文中で引いたもの以外>
●中山信弘著 「法律学口座双書 工業所有権法 上 特許法 第二版増補版」
●中山信弘編著 「注解 特許法 上巻 第3版」 青林書院 p954
●青山紘一著 「特許法第9版」 法学書院 p24
●仙元隆一郎著 「特許法講義第4版」 悠々社 p239
●竹田和彦著 「特許の知識 第8版」 ダイヤモンド社 p372
●窪田英一郎著 『15 間接侵害』「知的財産法の理論と実務 1 特許法 〔1〕」 新日本法規 p198
●杜下弘記著 『16 間接侵害」「新・裁判実務大系 4 知的財産関係訴訟法」 青林書院 p257
●角田政芳著 『本質的要素に係る特許権の間接侵害について』「紋谷教授古希記念 知的財産権法と競争法の現代的展開」 発明協会 p446
弁護士 永 田 玲 子
インフォテック法律事務所
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2010年04月14日10:47 ダブルトラックの弊害か裁判官の当たり外れか
特許侵害訴訟における特許無効主張のダブルトラック問題(*1)は、様々なところで論じられている深刻なテーマです。
2010年2月25日、日弁連知的財産センターが主催した知的財産訴訟に関する講演会において、東京地方裁判所民事47部(知的財産の専門部の1つ)の阿部正幸裁判官から、東京地裁における知的財産部の方針について、概要、以下のとおりの説明がありました。
すなわち、特許法168条の存在は念頭におきつつも、侵害訴訟が係属している裁判所の心証と異なる特許庁の審決が先行した場合でも、審理の中止(特許法168条2項)は基本的にはしない、そうすると審決と異なる内容の判決が出ることになるので当然控訴される、他方で当該審決についての審決取消訴訟も提起されるであろう、そこで侵害訴訟の控訴審と無効審判の審決取消訴訟の2つを知財高裁の同じ部で審理することにより判断の統一をはかっていく、とのことでした。
実際、東京地裁における特許侵害訴訟の審理期間の平均は約1年です。この1年という期間は無効審判の判断は特に考慮していないと言われれば、「そうだろうなあ」と思える期間です。ちなみに、侵害訴訟で無効審判が提起されるのは、8~9割に達するのだとか。
しかし、何事にも例外はあります。
私が担当している案件の中には、既に2年以上の長きにわたって東京地裁の知財部に係属している特許侵害訴訟事件があります。もちろん平行して無効審判の申し立てがなされ、これに対する審決、審決に対する知財高裁への審決取消訴訟の提起と判決が既に出ています。
おかしいのは、ダブルトラックの一方(特許庁ルート)での動きがあるたびに、裁判官の訴訟指揮ばかりか心証までもが揺れまくったことです。現在、当方有利な心証ですが全く予断を許さず、正直うんざり。・・・という私の感情は脇においておき、問題はどう
してこのようなことが起こってしまったのか、という点。
私がこの訴訟の経緯を愚痴ると、弁護士は全員、「その裁判官、よほど自分の判断に自信がないんだね。調査官もついてるのにね~」と言います。身も蓋もない回答ですが、少なくとも当該裁判官が、阿部裁判官が説明されたような東京地裁知的財産部の方針に沿っていないことだけは確かです。ちなみに、調査官は、当初ほんのわずかの回数だけ弁論準備に同席されていましたが、その後同席しなくなりました。私は、裁判官の当時の心証(特許庁と異なる)が、調査官の意見(特許庁と同じ)と合致しなかったため、裁判官により敢えて外されたのでは?と考えています。
ダブルトラックで全く異なる結論が出て、再審を検討しなくてはならない大問題と比べると、私が直面している問題は、次元の低い問題です。というよりも逆に、当該裁判官は、最終的には特許庁の判断に心証を合わせてきたことから、「大問題」は回避できている。したがって、むしろ、当該裁判官からすれば、この点をほめろよ、と言いたいところかもしれない。
しかし、特許庁の判断とは異なっても、さっさと判決を出してくれていれば、知財高裁で特許庁の有効・無効の判断と合致した判決も既に出て、今頃はとっくに最終的な決着がついていたはずだと思うと、この訴訟の遅延は納得しがたいものがあります。裁判官の心証や訴訟指揮が揺れ動きまくるせいで、クライアントにも随分不安な思いをさせていますし。
将来別の侵害訴訟を提起したとき、この部に配点されたら、速攻取り下げて違う部に配点されることを狙って出し直そうと思っています。
インフォテック法律事務所
弁護士 永田玲子
*1
特 許権が無効であることを主張する手段として、以下の2つの手段があり、この2つの手段があることから引き起こされる種々の問題の総称。
(1)侵害訴訟において権利無効の抗弁(特許法104条の3)を出す方法
(2)特許庁に特許無効審判(特許法123条)を申し立てる方法
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